色温度で操る自然なティール&オレンジ写真の"撮り方"

2022年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします……と書いているうちに気づけば6月。いつもながら筆が遅いのが悩みです。遅すぎやせんか。

さて、私のインスタグラムで一番よく聞かれる質問が「色味の作り方」です。今回は私が写真の色味を作るときによく使う、ティール&オレンジという手法についての記事です。

ティール&オレンジとは

ティール&オレンジとは読んで字のごとく、ティール色とオレンジ色をベースに写真の色づくりをする手法のことです。ティール色というのはこんな感じの緑がかった青オレンジの補色です。
ちなみに、私のサイトはティール色がベースカラーになっています。好きなんですこの色。

ティール&オレンジは映画等でよく使われる手法で、補色関係にある色を使うことでコントラストが強調され、画面に奥行を与える効果があります。また、人の肌はオレンジに近いので、人物をオレンジ、背景をティールにすることで人物の存在感を強める効果も期待できます。

作例

細かい手法の説明は置いておいて、まずは作例から見ていきましょう。

ティール&オレンジの対比が分かりやすい写真から、かなり控えめな写真まで並べてみました。
実は一般的な方法とは少し異なる方法で色づくりをしています。
もしかすると他のサイトやSNSで見たティール&オレンジとは雰囲気が違うかもしれませんが、その理由は次の章以降で説明していきます。

ティール&オレンジを”撮る”とは

※注意
この記事はある程度写真の知識が前提になっています。
色温度、ホワイトバランス、色相環、HSL、カラーグレーディング、トーンカーブ。これらの用語がわからない人は調べてからご覧ください。

タイトルにもある通り、今回お伝えするのはティール&オレンジの「撮り方」です。

実は「ティール&オレンジ」で検索して出てくるのはほとんどが「編集方法」です。
なぜこの記事では「撮り方」を解説するのか。
その説明のために、まずは「編集で作るティール&オレンジ」のお話をしましょう。

”編集”で作るティール&オレンジ

一般的なティール&オレンジの編集方法には大きく分けて2つの方法があります。

1つ目はHSLを使ってオレンジとブルーを調整する方法。
ブルー・アクアの色相をグリーン側に振るとティール色に近づきます。
その上でレッド~イエローとブルー・アクアの彩度を上げて強調することでティール&オレンジにします。他の色の彩度を落とすこともあります。

2つ目はカラーグレーディングを使う方法。シャドウ側にティール(H:170くらい)ハイライト側にオレンジ(H:35くらい)を乗せて、写真全体の色味をティールとオレンジで上書きすることで色を作ります。

実はもう1つ方法がありますが、それは後ほど。

次に、2枚の画像をそれぞれの方法で編集してみましょう。

まず1枚目。RAWから最低限の補正だけ行ったものがこちら。

先ほど作例でも紹介した写真です。説明のために非常に簡単な補正しか行っていませんが、最初から画面の中に青とオレンジの部分があるため、ティール&オレンジの編集をしていない状態でも色の対比がわかりやすくなっています。

この写真に、HSLだけを使ってティール&オレンジを目指したのがこちら。

青の色相をグリーンに寄せて、ややイエローに近かった服の色をオレンジに寄せました。
これだけでも色の対比がはっきりします。ティール&オレンジができたと言って良いでしょう。

次にカラーグレーディングだけを使った場合。

シャドウ(=コンクリート部分)にティール、ハイライトにオレンジを追加しました。
結構頑張りましたがこれが限界です…
この方法では狙った部分にティールを乗せられないので、空の色がブルーのままだったり、顔の血色が悪く見えてしまって、見栄えの良いティール&オレンジを作るのが難しいです。

続いて2枚目の基本補正。

日の出前の海岸で撮った写真です。明暗差は少ないですが、一応画面の中にオレンジ(茶色)の髪と青の服が入っています。

この写真をHSLで編集すると。。。

違和感がない範囲で髪をオレンジ(イエロー⇒赤寄り)に、服をティールに寄せました。
背景の山がなければ色の対比が感じられるかも、、、という感じでしょうか。
ちなみに山の色はグリーンよりもアクアやブルーが多いので、HSLだけで山の色を抜いて服の色を残すのは無理です。
ティール&オレンジとは言いがたいですね。

続いてカラーグレーディング。

一枚目のカラーグレーディングより更に酷い。
シャドウのティールが服よりも先に髪や背景の山に乗っていて非常に汚く見えます
また、明暗差が少ない写真のため、ハイライトのオレンジがどこに乗っているかほぼわかりません(これ以上やると画面全体がオレンジに…)。

・・

・・・

さて。

上手くいきませんね。
綺麗なティール&オレンジが作れたのは一枚目のHSLを使った方法だけで、他の写真や方法では色の対比が出なかったり、写真全体の色味が破綻してしまいました。

こんな風に、元々の写真にオレンジとブルーのはっきりした対比が無ければ、どれだけHSLを調整したり、カラーグレーディングで存在しない色を足しても綺麗なティール&オレンジを作ることは難しいです。

”撮り方”で作るティール&オレンジ

さて、ではどうしたら良いのかというと。
「元々ブルーとオレンジの対比がある写真を撮る」それだけです。
元々の写真にしっかりと色の対比構造があれば、あとは編集でほんの少し色味を整えてやるだけでティール&オレンジが出来上がります。

そういえば人の肌はオレンジでした。ということは背景がブルーになるように撮影場所と構図を選べばいいのですが、、、それではあまりにも窮屈ですね。
青い背景が無い場所でも色の対比構造を作り出すことは可能です。
ここからは「色温度とホワイトバランス(WB)」に注目して、自由にティール&オレンジを”撮る”方法を解説します。

色温度とホワイトバランス

ここで一度、色温度とホワイトバランス(WB)のお話をしましょう。

色温度とは光源が発する光の色を表す数値です。大まかにはその数値が低い程赤く、高いほど青く見えるようになります。

一方、ホワイトバランス(WB)はカメラの機能です。WBの設定が光源の色温度と同じであれば、被写体の本来の色が写るように(=ホワイトの物体がホワイトに写るように)カメラが調整してくれます。
WBの設定に対して光源の色温度が高ければ被写体は青く、色温度が低ければ赤く写ります。

WBの設定はカメラに任せることもできますが、代表的な光源の色温度は覚えておくと便利です。最低限覚えておきたいのは↓の6つ。

  • 夕日:2000~3000K(ケルビン)
  • 白熱電球:3000K
  • 蛍光灯:4000K
  • 晴れの日の太陽:5500K
  • 曇りの日の空:6000K
  • 日陰に回りこむ太陽光:7000K

条件や製品によって多少の変動はありますが、光源ごとの大まかな色温度を覚えておけば、撮影現場で適切なWBを設定できるようになります。
また、基本的にWBに設定することはありませんが、晴れの日の空は概ね10000Kです。
ティール&オレンジの「撮り方」では光源ごとの色温度の知識が非常に重要になってきます。

色の対比を操る

つまり、カメラのWB設定より色温度の高い光と低い光を同時に写せば、画面の中にブルーとオレンジが写ることになります。
今回の肝はここです。

色温度の異なる光源が混在する場所を見つける、もしくは作り出すことでブルーとオレンジの対比構造ができるので、あとは編集で色味を整えるだけでティール&オレンジの写真が完成します。

ここまでを踏まえて、冒頭の作例を見返してみましょう。

ブルー光源:日陰(7000K) / オレンジ光源:朝日(2000K) / WB:4200K

早朝、橋の上で被写体にだけ朝日が当たる場所で撮影しました。背景部分はまだ日が当たらず日陰なので、約7000Kになります。朝日や夕日+日陰は屋外で最も簡単に色の対比を作れる条件です。

ブルー光源:曇り(6000K) / オレンジ光源:エジソン電球(2200K) / WB:4200K

エジソン電球という非常に色温度の低い照明をつけた屋内で、窓から屋外の光が透けるように撮った写真です。曇りの日かつ屋内で、明暗差のつきにくい環境ですが、極端に色温度の異なる光源を使えば十分に色の対比を作ることが可能です。

ブルー光源:青空(10000K) / オレンジ光源:白熱電球(3000K) / WB:4000K

日没直後の東の空をバックに、居酒屋の照明を被写体に当てて撮影しました。街灯りを使ってティール&オレンジを狙う場合は真っ暗になってからより、日没直後の方がおすすめです。

ブルー光源:空(10000K) / オレンジ光源:朝日(2000K) / WB:6000K

逆光でもティール&オレンジは撮れます。この写真では朝日をオレンジ光源に、砂浜に反射した空をブルー光源にして撮っています。同様の考え方で空のグラデーションからもティール&オレンジを作れます。

最後に。

以上が、私が普段撮影で意識しているティール&オレンジの「撮り方」です。
撮って出しの時点で色の対比構造が出来上がっているので、あとは好きなように編集してください。
色の破綻を起こさずとも、自然にティール&オレンジの写真が出来上がるはずです。

複数の光源の光が混ざった環境はミックス光と呼ばれ、写真を撮るのが難しいとされています。ですがきちんと光を読み解けば、個性的な写真の表現にも応用できるのがミックス光の面白いところです。
みなさんもぜひ試してみてください。

それではまた次の記事で!

おまけ

本編でさんざんdisった、カラーグレーディングを使った編集方法の名誉回復と、もう1つの編集方法についてさらっと触れておきます。

「撮り方」で紹介した、朝日or夕日+日陰のパターン。実はこのパターンの時はカラーグレーディングでもティール&オレンジが成立します。元々ハイライトがオレンジ、シャドウがブルーに寄っているので、カラーグレーディングで色を足しても違和感が出にくく綺麗に仕上がります。
とは言っても、黒髪や茶髪のモデルだと髪の色がおかしくなってしまうので、結局あまりいい方法ではないですね。カラーグレーディングはあくまで控えめに使いましょう。

そしてもう1つの方法。カラーグレーディングの代わりにトーンカーブを使えば、狙った場所に色を追加できるのでより綺麗に仕上げることができます。。。が、トーンカーブの使い方を解説すると長くなるので、今回は割愛します。
慣れている人はトーンカーブで必要な部分にだけティールとオレンジを足してみてください。

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